雇用主または採用担当者へのメッセージです:日本語が流暢だと思われるには日本語能力試験N1が必要だと聞いた事がありませんか?もしそうでしたら、ここに新しい視点を書かせて頂きます。JLPTのスコアだけを基にした面接や採用をやめることで、雇用主は利益を得ることが出来ます。このテストと仕事で必要とする流暢さに関して考慮すべき点についてこの先をお読みください。
The English version is here.
JLPTとは何か?
日本語能力試験 (JLPT)は、国際交流基金と日本国際教育支援協会が運営されている試験です。レベルはN5からN1まででして、N1が一番難しいレベルです。
日本語能力試験は、文法や語彙の知識、読解力、聴解力を試すのに最適な方法だと思います。日本語能力試験の勉強をした人、あるいはどのレベルでも達成した人は、素晴らしいことを行なっていると思います。しかし…
JLPTはビジネスのためではない
私の意見としては、この標準化されたテストは、必ずしも日本語でビジネスを行う、あるいは促進するための候補者の真の能力を表すものではないと考えております。
以下のシナリオを考えてみてください。
- 雇用主が日本語能力試験の資格を持たない候補者を不合格とする。
- 日本語を使って仕事をする、あるいは日本語環境で仕事をするためには、候補者はN1またはN2レベルでなければならないと、雇用主は考えている。
- N1やN2に合格しているのだから、流暢な日本語を話せるのだろうと考える。
このような事態は、雇用主から優秀な人材を奪い、その人材から有望な雇用を奪うことが多いと思われます。
JLPT試験の事情について
下記についてはご存知ですか?
- 日本語能力試験は、全米で年に1回しか実施されません。
- 日本語能力試験は、アメリカの特定の場所でしか実施されません。もし、登録した受験者が州外の試験会場に行った場合、受験料だけでなく、飛行機代、ホテル代、その他の費用も自己負担になります。
- パンデミックの影響で、2020年に米国で日本語能力試験が全面的に中止されました。日本語能力試験の合格最低点は、多くの教育や仕事の機会に必要な条件であることが多いため、何百人もの受験者が事実上、それらの機会への応募資格を失ってしまったのです。
- 2021年、日本語能力試験はアメリカの試験会場をさらに限定されました。その結果、2年連続で試験を確保できなかった受験者もいます。
そう考えると、日本語能力試験には、アメリカでの実施時期や実施場所に大きな制約があると言わざるを得ません。しかし、残念ながら、ほとんどの雇用主はそのことに気づいていないと思われます。
では、雇用主や採用担当者にとって、このことは何を意味するのでしょうか。それは、日本語能力試験の資格がないからといって、面接や就職に不利になるとは限らないということです。
日本語の流暢さについて
日本語を学ぶのは難しいことです。ひらがな、カタカナ、漢字の3つのアルファベットと、ビジネスなど公的な場で必要とされる敬語があります。また、日本語を学ぶ人にとって、「話す」「聞く」「読む」「書く」の技能の習熟度はさまざまです。
2020年、私はミシガン州にあるスクールクラフト短大の新聞のために、「流暢」という言葉がなぜ学生、求職者、雇用者を惑わせるのかについて詳しい記事を書かせて頂きました。私の意見では、仕事をするのに「流暢」である必要はありません。さらに、プロのレベルと比べられない通訳・翻訳スキルは、いわゆる「流暢な」言語スキルと同等の結果をもたらすこともよくあると思います。
その記事をこちらでお読みください: Creating Bilingual Careers For Those Not Yet Fluent (英語)
日本語能力試験の個人的な経験はこうです。最高レベルのN1に合格するためには、かなりの単語を大量に勉強しなければなりませんでした。日本版のテレビゲーム「ジェパーディ」に出てきそうな単語もあるなあと思いました。また、今思えば、長年仕事で日本語を使ってきたにもかかわらず、もう一度N1に合格できるかどうかは、かなり疑問です。
それでも、日本語能力試験を受けるメリットはあると信じています。私はこの試験のために勉強している間に、驚くほど多くの日本語を学びました。確かに、そのことを少しも後悔していません。日本語能力試験を受けると、腰を据えて勉強することになるので、お勧めです。日本語の基礎ができれば、その基礎は次の段階に進み、どのような業界でも応用が利き、発展させることが出来ます。
考慮すべきシナリオ
はっきり言って、読者の皆さんには、日本語能力試験を受験することを強くお勧めします。この試験の準備の過程で得られる知識は、決して過小評価できるものではありません。
しかし、採用担当者の皆さんは、日本語能力試験だけで採用を決めないでください。以下のようなシナリオでは、高い資質を持つ候補者が見落とされてしまう可能性があります。
- プロの翻訳者:言葉のマスターであり、何十年も経験を積んできた達人たちが、日本語能力試験に不合格になるかもしれません。なぜなら、彼らの業界知識から外れた語彙を試されるからです。だからといって、翻訳者としてダメなのでしょうか?また、会社にもたらす価値を下げることになるのでしょうか?そんなことはありません。翻訳者の強みは読み書きにあり、リスニングやスピーキング、専門外の語彙の使用はスキルセットの中心ではないということです。
- プロの通訳者:目もくらむほど高いレベルで日本語を聞き、話すコミュニケーションの達人たちだが、日本語能力試験には合格しないかもしれません。なぜなら、彼らの仕事は必ずしも漢字を読んだり書いたりすることではないからです。だからといって、生のやり取りを円滑にするスキルが低いと思われますか?いいえ。「話す」「聞く」のスキルを磨き、会社や組織のための優れたコミュニケーターになることに重点を置いているからです。
- カケハシ人材: さまざまな業界で働く人の中には、誤解を解き、文化の壁を取り払い、新しい国でビジネスを立ち上げるための知性と機転と経験を持った、驚くほど優秀な人たちがいます。しかし、彼らは必ずしも日本語能力試験を受けていないかもしれません。だからといって、ビジネスで成功しないのでしょうか?いいえ。文法にこだわらないコミュニケーション能力と、壁を破る人間力が、多言語化・グローバル化するビジネスにおいて不可欠なのです。
- 未開拓の人財: 最後に、次のような人はどうでしょうか。 日本語能力試験の最高レベルであるN1に合格したけれど、ビジネスの世界では物足りないと感じている人は多いのではないでしょうか。このような人たちを仲間外れにしないでください。このような人たちに必要なのは、せっかく身につけた日本語の基礎をビジネスの世界で生かすための実戦的な経験が必要です。
標準的な試験と同様に、雇用主はJLPTの得点に加えて、候補者のソフトスキルを考慮する必要があることを忘れないでください。さらに、新入社員は、雇用主の期待に応えるために(あるいはそれを超えるために)、十分なトレーニングと職務上の時間が必要です。実際、OJTを行うことは、関係者全員にとって持続可能なベストプラクティスとなります。
では、雇用主は何をすべきなのでしょうか?
- 履歴書では、日本語能力試験以外の資格も見てください。
- 候補者の経験を総合的な観点から検討してください。日本や日本に関連する授業、クラブや団体、留学、JET/文部科学省のプログラムなどに注目しましょう。
- 仕事の中で日本語をどのように使っているか、候補者に説明させましょう。例えば、話すこと、聞くこと、読むこと、書くこと、そしてビジネスを行うことに重点を置いている場合などです。
- 候補者が特定の業界用語の専門家ではないことを想定してください。
- 候補者が専門用語を習得する能力があるかどうかを確認する方法を導入してください。
- 日本語能力試験は、どんなレベルのものであっても、感動するものです。それは、a)受験者が真剣に日本語を勉強していることと、b)試験を受けるためだけに、登録し、お金を払い、勉強し、場合によっては州外まで出かける努力をしたことを示すものだからです。
- 提供する仕事の条件を見直してください。(下記参照)
- BJT試験について学んでください。(下記参照)
- 本気の候補者には、仕事のチャンスとトレーニングを提供してください。その機会がありましたら、彼らの実力がわかります。
#7: 職務内容要件の見直し
正直に言わせてください:採用担当者は、日本語能力試験の取得を推奨するが必須としない方が、より多くの応募が出てきます。
日本語能力試験は、受験者の語学力の目安になりますが、資格のない受験者を不合格とするものではありませんので、ご了承ください。
(もちろん、日本語がわからない場合、候補者の日本語のレベルを判断するのは難しい作業です。もし、面接をする際に日本語のレベルをどのように判断したらよいかわからない場合は、弊社のバイリンガル面接サービスをご検討ください: Bilingual Interview)
求人票の必須言語欄には、もっと良い表現があるはずです。例えば、「日本語が流暢であること」と書くのではなく、本当にそうなのか、一度考えてみてください。「日本語能力試験N2またはN3相当の中級程度の日本語力と学習意欲」があれば、より適切な候補者を確保できるはずです。
次のようなシナリオを考えてみましょう。
- 日本語を母国語とする顧客と文章や会話でコミュニケーションをとる営業職の場合、上級レベルの日本語が必要な場合があります。しかし、中級レベルの日本語力と適切な人柄を持ち、迅速に学習する意欲のある方であれば、十分可能でしょうと思われます。
- ネイティブの日本人と一緒に働くアドミの場合:聞き取りと読解の能力が比較的高ければ、完璧な日本語の会話や文章力は必要ないかもしれません。
- プログラムの主催者や管理職の場合:日本のビジネス文化に関する知識および経験があれば十分でしょうと思われます。この場合、どのようなレベルの日本語も有益となります。
つまり、私がアドバイスしたいのは、自分が求めている役割と、それが何を必要としているかを批判的に考えてみることです。最近、弊社のジョブボードに広告を掲載して頂きました雇用者に問い合わせをするようになりました。なぜなら、募集している仕事に対して、必要以上に高い期待を寄せているように感じるからです。
はっきり言って、候補者にあまり期待するなと言っているのではありません。むしろ、あまりに狭量で柔軟性に欠ける言語要件を要求することは、質の高い候補者を遠ざけてしまう可能性があることを認識しておいてください。
また、日本語を勉強して「流暢」になればなるほど、自分の能力に対して謙虚になる傾向があることにも留意してください。あまりに厳しい語学要件は、有能な候補者が自分の本当の日本語能力を疑い、実際に成功する可能性のあるポジションへの応募を避けることになりかねません。雇用主や採用担当者は、このような事態に陥らないようにしましょう。求人条件を調整し、候補者を獲得してください。
#8: BJTとその他試験
日本語能力試験だけでなく、さまざまな試験がありますが、ビジネスで最も役に立つのはビジネス日本語能力テスト(BJT)です。アメリカでは試験会場が限られていますが、BJTは一年中いつでも受験できます。
この試験の存在を知っている求職者や雇用主は少ないと思います。そこで、日本や日本語に関連した職業に就くために必要な内容であることから、もっと注目されるようにしようと思っています。BJTは、電話、商談、Eメールなど、日本のビジネスで日常的に使われる文章表現と語彙の能力をテストします。もし、地理的な制約からBJTを受験していない場合でも、求職者には模擬試験を受け、日本のビジネスマナーの規範を勉強することを強くお勧めします。
つまり、すべての雇用主、採用担当者はBJTを意識する必要があると思います。
最後に
私の願いは、日本語能力試験だけが就職の切符になるのではなく、バイリンガル候補者がそのユニークな日本語能力で尊敬されるようになることです。
そして、その業界の専門用語や社内用語の習得の可能性を見出した雇用主が、バイリンガル候補者に仕事を与えてくれるようになることを望んでいます。
最後に、中級程度の日本語能力で十分な仕事については、「流暢」を求めないでほしいと思います。(これはまた別のブログ記事になると思います。)
雇用主の皆様へ:もしこの記事が心に響いたのであれば、ぜひ私にメッセージを送ってください。この重要な問題について、皆さんのご意見を伺い、対話を続けることができれば幸いです。
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